1 / 3
かすみととら
「ただいまー」 ある日、私が自宅に帰ると何だか家の中に気配がします。リビングの方かなとあたりを付けて見に行くと、幽魅が虎柄のビキニ姿で、二匹の虎を従えてごろごろしていました。虎も喉をごろごろされています。ついに自分の分裂で動物まで作れるようになったか・・・。いや、それよりも何よりも。 「寒そう!」 「一言目がそれぇ!?水着姿の女の子を見たら褒めろって学校で習わなかったのかな凪くんは!」 幽魅がぷんすかと憤慨しますが、11月にリビングでビキニ姿になってる方がおかしいと思うのは私だけでしょうか。 「・・・ああ、幽魅は暑さ寒さ感じないんだもんね。いや、でもそれにしても水着はどうかと・・・それに、女の『子』?」 「ああー!今言っちゃいけないこと言ったぁ!29歳独身は行き遅れのババアだって言ったぁー!」 言ってない。被害妄想も甚だしい。第一、33歳の私が自称おじさんなのに4つ年下で29歳の幽魅を老婆扱いする訳がないでしょう。しょうがない、ご機嫌とるか。 「はいはい幽魅は若くて可愛いよ。その恰好もとってもセクシーで私興奮しちゃうなあ。触れるものならおっぱい触らせてもらいたいくらい」 「そこまで言ったらセクハラだ!?凪くんのえっち!というか全然感情がこもってないし!」 幽魅が胸をガードしながら私を非難します。確かに触らせてもらいたいは言い過ぎだったか。 「ところで、なんでそのカッコ・・・あっ、もしかしてハロウィンの時にフライングしてたみたいに今回もフライング節分とか?でも鬼コスだったらもうちょっと・・・」 「腰巻き一枚にならないとダメだって!?そんなのおっぱい見えちゃうじゃん!変態盗撮カメラマンだなぁ、もう!」 だから言ってない。もうちょっと角とか金棒とか用意しなさいって言いたかっただけだ。それを言葉にする前に、幽魅は布面積を増やしてしまいました。・・・まあ、多少は見てるだけで寒々しい格好ではなくなったから結果オーライか。 「はぁ・・・とりあえずさ。気が済んだならその虎もしまってくれる?」 「えっ、この虎って凪くんのペットじゃないの?」 ・・・?何を言ってるんでしょう、幽魅は。そう思っていると、私のスマホが振動し、玄葉からのメッセージが届きました。 『お兄、帰ってくる時気を付けてね。なんかネットニュースで、私たちの家がある町内で虎2匹の目撃情報があったって。飼育されてたのが脱走した奴らしいから、人には慣れてるだろうけど、猛獣だから危険って事には変わりないし。私も収録終わったら帰るけど、先に帰ってたら戸締りちゃんとしといて』 ゆっくりと虎たちに目をやった後、ふとリビングの庭に面する窓を見るとガラスが盛大に割れてました。なるほど、ここを破ってうちに入って来たのか。 「この虎、私が凪くんの家に来た時には最初からリビングでうろうろしてたから、飼い始めたのかなって思って遊んでたの。ちなみに虎柄ビキニだったのは鬼コスとかじゃなくてこの子たちに合わせてだからね?」 猛獣を一般家庭で飼育してる訳がないでしょう。日本の常識も忘れたのかな、この幽霊は。私が能面のような顔になっていると、虎たちが私に興味を示したのか、のしのしと近寄ってきました。マズい。 「フラッシュ!」 咄嗟に私はカメラを構えてフラッシュを焚くと、虎が怯んだ隙にリビングのドアから出て鍵を閉めました。次いで、警察に通報します。その後、しばらくすると警察や地元の猟友会が集結し、虎は捕獲されていきました。大人しい個体でよかった、もし空腹で凶暴な個体だったら死んでたかもしれません。 ちなみに幽魅は、帰ってきた玄葉がこの出来事を知ったために『お仕置き』として塩をぶっかけられていました。もがき苦しむ幽魅を見下ろして玄葉が冷たく告げます。 「次やったら縛り上げて大事なところにバター塗って虎の前に放り出してやるから。バター犬ならぬバター虎って奴ね。虎とバターだから相性いいでしょ」 「玄葉ちゃん、虎とバターってそういう関係性じゃ無いよぉ!?ていうか虎が侵入したの私のせいじゃないじゃん!」 「虎がペットだとか変な勘違いしてお兄を危ない目に遭わせたのは事実でしょ。お兄に何かあったら責任とれないでしょ。ほら、お兄に謝る。それとも漬物樽に閉じ込められて塩漬けになりたいか?」 「うえーん!凪くんごめんなさいー!」 ・・・これ、もし玄葉が先に帰ってきてたら虎さえも玄葉の圧に屈していたかもしれないな・・・。