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平日午後の公園に居るサラリーマン
また桜一文字さんに『お掃除』されました。この前の靴下写真を送ってもらった時のやり取りが気になっていたようで、見えちゃいけないところが見えてる写真を根こそぎデリートされました。まあ例によってプリンタのセットアップCDみたいな無難なものに偽装してバックアップしてたので実質損害はないんですが。 今日の話の発端はそこじゃなくて、紙の写真を整理されてしまった時に出てきたこの男性の写真です。この人は、別に知り合いとかではないんですが、小学生高学年当時の私が学校から帰った後に公園で遊んでいる時、よく見かけた人なのです。インスタントカメラを持っていた私がこっそり彼を撮影したものがこの写真です。 学校から帰った後に見かけている事から分かる通り、彼が公園に現れるのは平日午後ばかりでした。当時は不思議には思っていませんでしたが、今考えると営業職のサボりだったのでしょうか・・・。まだ幼稚園児だった玄葉は、彼の事を『サラリーマンプータロー』と呼んでいました。玄葉のワードが強いのはこの頃から変わらないようです。普通の幼稚園児の語彙力じゃないだろ、そのセンスは。 私も玄葉も別に彼と話す仲じゃなかったし、なんならこの写真を見るまで存在を忘れていたまでありましたが、私の手元をひょこっと覗き込んだ瑞葵ちゃんが発言したのです。 「この人、お父さんの元同僚の方かもしれません」 瑞葵ちゃんは私よりも一回り以上年下なので、瑞葵ちゃんが彼を見たのは恐らくこの写真より10歳以上年を取った彼なのでしょうが、よく家を訪ねてきていた父親の同僚によく似ているとの事。 「私のお父さんは丸知(マルチ)商事って商社の営業マンなんです。この人は途中まで一緒に働いていたけど、たしか新戸(ニイト)警備って会社に転職するとかで、それ以来見かけていないですね」 私が出会った時から商社勤めだったなら、転職経験はあるかも知れないけどずっと営業マンの人だったのか・・・。それが今は警備員ね。何だか一人の一生を見ているようでちょっと興味深いかも。 「そう言えば聞いた事無かったけど、瑞葵ちゃんのお父さんってどんな人なの?」 「ええと、銀色の長髪と碧緑の瞳、ここまでは私とお揃いですね。それで身長は高くて、かなり美形の部類だと思います。責任感と目力が強くて冷静な人でしたけど、同僚や部下のフォローもよくしていて、社内ではみんなお父さんを慕ってたみたいです。私服では黒いロングコートがお気に入りで、趣味は剣術でした。本物の剣術家の方にも一目置かれるくらい演武が上手くて、家にはすごく長い日本刀もあるんですよ」 どうしよう、聞けば聞くほどイメージが引っ張られていく。 「瑞葵ちゃん、お父さんってエネルギー会社の私兵(ソルジャー)だったりしない?」 「ソルジャーって何ですか!?商社の営業マンだって言ったじゃないですか、もう」 そうだった。でもそんな美形に営業に来られたら取引先の女性写真は大喜びだっただろうな。 「あっ、あと忘れちゃいけないのが一つ。お父さん、『娘に近づく男絶対に(ピー)すマン』です」 「・・・ねえそれ私大丈夫なんだよね。私が瑞葵ちゃんのお父さんに会っても(ピー)されたりしないよね?」 瑞葵ちゃんはガッツリ目を逸らしました。ダメじゃん! 「だ、大丈夫ですよ。私の家に上がり込んだりしなければそうそう出会ったりしないと思いますし」 「私上がり込んだ事もあるじゃん!女装させられた時とかさ!」 「・・・あっ、それですよ!うちに来るときはいつも女装してればお父さんに遭遇しても斬首されずに済みます!」 なに良い事思いついたみたいな顔してるの、この子。もうしないからな。ていうか『男は斬首』を前提に話してるのが冷静にヤバい。 「瑞葵ちゃん、お願いだからうちに来る時にもお父さんには見つからないようにしてね・・・?」 「ふふ、そこは大丈夫ですよ。今日も誰にも見られてません。現に凪さんも、いつ私がこの部屋に来たか分かりませんよね?」 「・・・そういえばいつ来たの、瑞葵ちゃん」 その問いに対しては、瑞葵ちゃんは目を細めて微笑むだけで答えてくれませんでした。お父さんより瑞葵ちゃんの方が怖いかもしれない。