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ミリシラ様の異世界百景その12「イヴェール大氷河・ネージュ城」
地球の皆の者、こんクエスト~!全知全能の大賢者「ミリシラ・シッタカブール」様じゃぞ!前回が地味だった分、今回は見ごたえのある景色を紹介しようではないか。 ・・・という訳で、ワシは今「イヴェール大氷河」に向かっておる。見ての通り氷と雪に覆われた極寒の地域で、気温は大体マイナス20度ってところかのぅ。今日はカラッと晴れておるからまだ温かい部類じゃな。これが猛吹雪の夜とかじゃとマイナス90度近くにまで下がるんじゃよ。 ここではさすがにワシも魔力のバリアだけで体温をキープするのはキツいので、今日はもふもふの冬服じゃぞ。可愛かろ?ヒマリに選んでもらったんじゃ。 ここは熟練の冒険者であっても命を落とす危険が高いので、立ち入りには基本的にガイドの魔法使いをつけるのが一般的じゃな。炎魔法や飛行魔法の有無は生存率に直結するからのぅ。そこまでしてここを訪れる目的がこれから見えるイヴェール大氷河って訳じゃ。さあ、この丘を越えれば見える頃じゃろうて。 おお、いい感じに綺麗な青色が見えるのう!イヴェール大氷河は完全に凍り付いた大河で、川からは純度の高い氷属性のマナが採取できたり、自然の化身でもある氷の精霊が現れる事もあるんじゃ。あっちのキラキラ光っている川で採集作業をしている一団がおるのぅ。ああして集めた氷のマナは冷房の開発や氷魔法の研究のために用いられるんじゃよ。 ちなみに川の方は分厚い氷で覆われているからまず落水の危険は無いんじゃが、海の方は注意が必要じゃ。当然ながら水が冷たく、落水なんぞしたら一瞬で体温が持ってかれるぞ。極寒の環境に適応した肉食の海竜が泳いでくる事もあるし、リスクと成果が割に合わんので誰も海には近寄らん。綺麗は綺麗なんじゃがな・・・。 あとは、このイヴェール大氷河の一角には、その昔に人が住んでいた城が建っておるんじゃ。その名も「ネージュ城」。せっかくだからそっちも見て行こうかの。 こんな極寒の地域に人が住める訳が無いと思うじゃろ。でもな、ネージュ城が築城された当初は、この辺りは温暖な地域で、大河も普通に流れておったんじゃよ。ただ、それはこの世界に魔物がいなかった頃の話じゃ。その頃はここはイヴェール王国と呼ばれておったな。 ある日、空に開いた裂け目から無数の魔物が襲来する災害が起きた。裂け目はいくつかあったが、その一つがこのイヴェールの沖合だったんじゃ。空を覆いつくす氷のドラゴンたちや、海から迫るまるで氷山が動き出したかのようなアイスゴーレム・・・当然、この地に住まう人間は全力で抗ったが、まだ魔法も無かった時代じゃった。イヴェール王国の人間は敗北したんじゃ。その時、人類の意地によって奇跡的にアイスゴーレムは倒されたんじゃが、その体に刻まれた氷の術式の効力が停止後も残り、この地域はそれ以来ずっと冬が続いておる。もうそのゴーレムも深い深い雪と氷の中に沈んで取り出せないので、現代の技術ではイヴェール大氷河を元の姿に戻すことはできんという状況じゃ。 生き残ったわずかな人々もここを離れ、今は誰もいなくなったこのネージュ城は、皮肉にも凍てつく事で当時の姿を守り続けておる。この城は人類と魔物が争い始めた歴史の始まりの1ページなんじゃよ。魔物との戦いが続く中で魔物の研究が進み、人類が魔法を技術として使えるようになってからは人類の勢力が優勢となっているが、まだ魔物も絶滅してはおらんし、これからもここは重要な文化財として残しておかねばならん。いつか、世界から魔物の脅威が消えた時には、ここを元の姿に復元できるようになるといいのぅ。 さて、あまり長居すると天候が悪化するやもしれんし、早めに帰るとするかのぅ。キャンプ用の装備とか持ってきておらんし。 見てくれてありがとうなのじゃ、おつカブール~! あ、そろそろヒマリの事を地球人にちゃんと紹介するべきかのぅ。よし、帰ったらヒマリの写真を集めるとするか。