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第X話「カラコンとカランコロン!霊園に潜む悪霊」
瑞葵ちゃんが悪霊に憑りつかれたとおぼしきあの霊園に、私は足を運んでいました。夜はなんだか危なそうだったので、日中の日が高いうちにやってきたのですが、そこで意外な人物に出会いました。 「へぇい。突然ですが凪くんはこちらの履物『下駄』をご存じでしょうか」 「うわびっくりした!幽魅、何してるのこんなところで」 幽魅が墓石に背を預けて座り込んでいたのです。わざわざこちらの眼前に足から虹まで伸ばして存在アピールしてきました。 「いや、下駄は知ってるけど・・・幽魅、なにそのカッコ」 秋も深まった時期に緑色の半袖半ズボン・・・見てるこっちが寒い。 「えー、凪くん知らないの、ゲゲゲの少年」 「そのコスプレするなら一番重要なちゃんちゃんこをなぜ外す・・・?」 あれが無いだけで一気に特徴が薄れるんだから、下駄より優先すべきだろうと思うのですが。 「ちゃんちゃんこはねぇ・・・やってみたけど機能が再現できなかったんだよぅ。ほら、あのちゃんちゃんこって飛んでって幽霊や妖怪に巻き付いて力を吸い取るじゃん?私の変身能力じゃ、飛ばすまでしかできなかったから諦めたの」 無駄にリアル志向だな・・・ていうか、その話で行くとその下駄は操作できるって事じゃん。 「そもそも何でコスプレしてるの。もうハロウィン終わって一週間以上経つよ?」 「えー、ソシャゲ界だとまだ未練がましくハロウィンしてるタイトルもあるよ?それに最近、ここに子供たちが肝試し気分でよく来るから、あんまりハロウィンが終わった気がしないんだよね」 幽魅はそう言いながらむにむにとカボチャお化けに化け、その後カボチャの下部から生えてきました。その後はハロウィンコーデに変身。そして元の姿へ・・・。なんか、だんだん妖怪みたいなレベルの変身になってきたな・・・。鍛えれば鍛えるほど霊能力って伸びるものなんだ。 「あれ、そう言えば幽魅、何か目の色違わない?」 「おー、気付いたね?カラコンだよ。ほら、前に瑞葵ちゃんに化けた時目の色が違うって言われたから、変身する時カラコンも作ってるんだ。直接目の色を変えるイメージが湧かなかったから、カラコンでやってます!」 それで今日は見る度に目の色が違うのか。言われてみれば、自分の目の色なんて普段意識しないから、カラコンを作る意識で変身する方が簡単なのかも。 「まあ、変身して遊ぶのはいいけど、他人に迷惑かけるような事はしないでね?」 「大丈夫だよ、私は凪くんと玄葉ちゃんにしか認識できないからね」 それもそうか、と思った時でした。三人の小学生男子が霊園にカメラを構えて現れたのです。 「あっ、おっさんも心霊写真撮りに来たのか?」 「えっ」 私のカメラを目に留めたリーダー格の少年が話しかけてきました。おっさん・・・まあ私も33歳だからな、小学生から見たらおっさんにしか見えないか。それより、心霊写真とは何だろう。 「心霊写真って、ここもしかして何か噂があるの?」 「何だ、知らねーのかよ。最近夜になるとさ、ここで誰もいないのに下駄みたいな足音がするって噂なんだぜ」 下駄・・・私はバッと幽魅を振り返りました。その途端幽魅もバッと視線を勢いよく逸らします。いやしかし、幽魅が犯人なら足音は他の人には聞こえないはず・・・。 いや、まさか。私は幽魅の足を靴でそっと踏みつけてみました。幽魅の足はすり抜けましたが、下駄の部分だけ感触があります。 「この下駄、実物じゃん!」 「だってー!変身させた自分の体を切り離してコントロールするなんてポルターガイストで動かすよりも超難しいんだよ!?そもそもこの下駄をごみ置き場で見つけて拾ったからゲゲゲコス思いついたんだもん!」 はた迷惑な・・・既に子供たちの噂になってるじゃないか。子供が肝試しにくる原因は幽魅だったようです。 「あっ、おっさんの足元に下駄があるぜ!」 「ほんとだ、下駄だ!」 「もしかして、噂の呪われた下駄だったりして・・・!」 子供たちが一斉に幽魅の足をカメラでパシャパシャ撮ります。子供たちに幽魅は見えないから下駄だけ置いてあるように見えてるんだろうな。 「うええー!何か足ばっかり撮られるのぞわぞわするー!」 幽魅が嫌がって下駄を履いたまま走って逃げだしました。辺りにカランコロンという軽快な足音が響きます。子供たちはそれをみて腰を抜かしました。 「「「うわー!!!下駄が勝手に走って逃げたぁー!!!」」」 ・・・翌日から新しい怪談が増えそうだな。このネタは玄葉にも教えておいてあげよう。染谷怪談を創作するヒントになるかもだし。