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学生のレポート「ピッツアラクネ」
この世界に生息する蜘蛛は数多の種類が知られているが、その中でもとりわけ奇怪な生態を持つ種である。 この蜘蛛は、どう見てもピッツァにしか見えない独特の巣を張る事で知られており、賢者たちの間でも研究が進められている。外観にはいくつかの亜種が知られているが、いずれもピッツァの具材に擬態するべく黒や赤の体色を含む種が多い。 もっとも興味深いのは、やはり独特の巣である。無数の糸によって編まれたこれはもはや一種の『織物』に近いと言えよう。外見は見ての通りピッツァと区別がつかず、また香りも再現されている。その鮮やかな見た目と香りで餌となる虫を寄せ付け捕獲するのだ。捕獲に用いるのはもっぱらチーズに見える部位で、ここは非常に強力な粘着性を持つ。ここに虫がとまると、熱々のチーズのようにとろけてねばりつき、虫を決して逃がさない。そしてもがく獲物を見つけると、この蜘蛛は悠々と近づいて獲物をチーズでぐるぐる巻きにし、あたかもチーズフォンデュのようにしてさも美味そうに捕食するのだ。 実に美味そうな見た目と香りの巣ではあるが、やはり本質は蜘蛛の糸であるために、常温であり、また味も蜘蛛の巣そのものであって少しも美味ではない。蜘蛛そのものもそのままでは美味とは言えず、どうせ食するなら本物のピッツァ生地にこの蜘蛛を乗せてピザソースをかけ、焼いて食べた方がおいしい。 ただ、憧れのミリシラ先生はこの蜘蛛を用いたピッツァがお気に召さなかったようだ。上手に調理できたのでピッツァ用の箱に入れてお渡ししたのだが、蓋を開けた瞬間まるで幼女のような悲鳴を上げて、蜘蛛ピザを僕もろとも火炎呪文で焼き払い、ピザは炭化、僕は全治2か月の火傷を負った。同じ学部の女学生たちからは『お前が悪い』『ミリシラ様がかわいそう』という声ばかりであった。解せぬ。