クライマックス迫る

●ヤドリギカンパニー・社長室にて 「社長、ずいぶんと上機嫌のようですが何か良い事でもありましたか？」 「ああ、あの金剛院家のご令嬢と正式に婚約を発表する事になったんだ」 「おお、素晴らしい事じゃないですか。早速社内でも祝賀会を企画しましょう。秘書の腕の見せ所ですね」 「まあ待て。まだ婚約の事は世間に発表しない。少し先にリゾートホテルを貸し切ったパーティを企画していて、その場で発表する予定なんだ。だから、お前もまだ口外しないようにな」 「かしこまりました」 （くっくっく・・・やっと手に入るぞ。莫大な財力と、あの美しい『赤』が。時間をかけて金剛院家に取り入ってきたのがようやく報われる） 秘書に対しては爽やかなウィンクを決めつつ、内心では邪悪な笑みを浮かべる宿城サイトであった。 ●同刻、金剛院邸・応接間にて 「宿城サイトとの婚約を正式に発表する事になりましたわ」 金剛院邸を訪ねて、現在の状況を報告していた際の事でした。晶さんの衝撃発言に私は心臓が止まるかと思いました。 「一週間後に、山中のリゾートホテルで宿城主催のパーティがありますの。そこで発表される段取りですわ」 「一週間後・・・ですか。時間が足りるか不安ですね」 雅ちゃんの協力もあり、宿城にとって外聞の悪いフェイク証拠はある程度あるものの、攻撃力に不安が残る状態です。 「このことは江楠さんにも後程連絡しておきますわ」 江楠さんは「探偵が金剛院邸に出入りしているとなると怪しまれるだろう」との事でこの場にはいません。最終決戦の作戦を考えるのにぜひいてもらいたいところですが、後にするしかなさそうです。 「今日はこの後、宿城サイトとパーティ内容についての打ち合わせが入っておりますの。そこでより詳しい状況を確定させてきますわ」 「お嬢様、宿城と会って大丈夫ですか～？」 桜一文字さんが心配するのも無理はありません。江楠さんの指示により、晶さんは宿城サイトに好意的に対応するように心がけていますが、内心のストレスは相当でしょう。 「もしどうしてもと言うようなら、私が影武者やりますよ～？」 「それには及びませんわ」 晶さんはウィンクをして問題なしとアピールします。 「というか、それ以前に桜一文字さんって晶さんの影武者なんてできるんですか？」 「一応訓練はしてますよ～」 「髪染めとメイクをすれば、かなり見分けるのは困難になりますわ。特にビジネスで数回会っただけの相手ならなおの事ですの」 そんなに似てるのか・・・ちょっと見てみたい。 「早渚さん、興味ありそうですわね。桜一文字、髪染めとメイクはちょっと時間が無いので今日は無理として、ドレスくらいなら着て見せて差し上げたらいかが？」 「おー、久しぶりにやってみましょうか。カメラマンの目から見ても、首から下だけなら見分けつかないんじゃないですかね～」 悪戯っぽく笑った桜一文字さんは、着替えるために応接間を出ていきました。 「ちょ、ちょっと早渚さん！？まだ撮るんですか～？」 「そりゃ撮りますよ。桜一文字さんが晶さんのドレス着ているところなんてそうそう撮れませんし。それに桜一文字さん、この前体でお詫びするって言ってくれたじゃないですか。これがそのお詫びって事でどうでしょうか」 「ずるいですよ！？それ言われたら断れないじゃないですか～！」 晶さんのドレスに身を包んだ桜一文字さんを、私は遠慮なく激写していきます。桜一文字さんも最初はノリノリでドレスを着ていたのに、今は恥ずかしがってモジモジしています。 「だってお嬢様のドレスって、どれもこれも胸の露出おかしいじゃないですか～！？嫁入り前の娘が着る服じゃないでしょこれ～！」 「桜一文字！わたくしの体形なら、むしろ胸の露出はそれくらいでないとゴージャスさに欠けますわ！早渚さんもそうは思いませんか？」 「胸はそれくらい露出している方がエレガントだと思います」 即答した私に、桜一文字さんが顔を真っ赤にして抗議します。 「エレガントじゃなくてただのエロでしょ～！紳士だと思ってたのに～！」 そうは言いつつも、私の撮影を受け入れてくれてるあたり桜一文字さんは本当に良い人です。激写しすぎて途中で勢い余って、着替え中で下着姿まんまの桜一文字さんを撮影してしまい、ヘッドロックを喰らったりしましたが。 そんな私たちを見て晶さんは楽しそうに笑っていました。早くこんな日常を取り戻して、晶さんが心の底から安心して笑えるようにしてあげないといけないなと改めて思いました。