シリアと先輩

「せんぱ～い。う～ら～べ～せ～ん～ぱ～い。息抜きしましょ～」 卜部頼道（うらべ　よりみち）の部屋に上がり込んだシリアは、そのベッドの上で足を揺らして退屈の意志を示した。対する卜部は、眉間にしわを寄せて机に向かい、大学の課題を進めていた。その手を止めて、ベッドを占領したシリアに顔を向ける。 「見てわかんねーかな。俺課題で忙しいんだけど」 「そんな事言ってー。私が来るまでエロ動画見てたくせにー」 「見てねーわ」 本当は見ていたが、それを認められるほど卜部は開き直っていない。 「先輩はす～ぐ誘惑に負けちゃって課題が進まないから、私が見張りに来てあげてるのにー。お部屋片づけないからなおさら誘惑に負けるんですよ？」 「うるせ。第一見張りに来てるんなら息抜き勧めるんじゃねーよ」 「だってさっきから全然進んでないしー。煮詰まってるじゃないですか」 シリアがころんとベッドに仰向けになった。 「ほらー、先輩。ハグしましょー。オキシトシン出ますよー」 「出るか。あと俺のベッドでごろごろするな」 「何でですかー。何でですかー」 卜部は一つため息をついた。直接的に言わないとダメかも知れないと意を決する。 「夜俺がそのベッド使うときにお前の移り香がしてムラッとするんだわ」 「えっ！？先輩私の匂いでムラムラするんです！？」 がばっとベッドから起き上がったシリアが目をむく。 「そりゃ、お前良い匂いするし。だからハグもしない。理性が飛ぶ」 「ええー！じゃあいい加減彼女にして下さいよ！？」 シリアが憤慨したように卜部に詰め寄る。卜部はそれを手で制して、断りの理由を述べた。 「それはダメ。この物だらけの部屋見て分かる通り、俺って手に入れたもの手放せないんだわ。お前が彼女になったら毎晩一緒に過ごしたくなるの目に見えてるし。でも、お前いつも夜何か用事あるじゃん」 「ぐぬっ」 シリアはほとんど毎晩、夜の町を巡回している。“獲物”を求めて。 「お前の夜歩き癖が無くなったらお前を恋人にするの検討するわ」 「そこ確約じゃないんかい！もー、分かりましたよ、頑張ってみます」 シリアの“狩り”は一般人にとっての“性欲発散”に近い。それを止めるのは並大抵の努力では成しえないだろう。 「っと、メッセージ？」 シリアがスマホを見ると、そこにはあの忌々しい“悪魔”の名前。そして本文は・・・。 「・・・先輩すいません。当分夜歩きやめられそうにないです」 「それ見ろ。・・・あ、やべ。大分話し込んだわ。課題課題」 卜部が机に向き直り、課題を再開する。シリアはその背後で、スマホを握りつぶさんばかりに握力を込めた。 （毎晩夜の町に宿城サイトがいないか注意しておけですって？宿城サイトって言ったらあの大企業の社長よね。それを注意しておけとか絶対またヤバイ案件に手出してるだろあのヤクザ女。ふざけてるのか。こっちはシリアルキラーとはいえ大学生なんだぞ） とはいえ逆らえるはずもなく、シリアはOKのスタンプを返した。 ※私服の色を黒か白か決めかねたので両方載せました。