宿城サイト密着調査

「凪たいちょー、ただいまであります！」 幽魅に宿城の調査をお願いしてから一日半くらいして、幽魅が帰ってきました。あの後ヤドリギカンパニーで寝ながら朝を待って、出社してきた宿城に密着を始めたそうで、その結果を教えてくれました。 あっ、出勤してきた！凪くんに見せてもらった写真と同じ顔、あれが宿城サイトだね。うーん、ぱっと見は『若きイケメン社長』そのものだなー。よし、ついて行ってみよう。 まずは社内の各部署を回って社員たちに挨拶をしているみたい。凄いなー、そんな社長今どきいるんだ。『社員を大事にする真面目な社長』って感じ。その裏にはクズの本性を隠してるなんて初見じゃ見抜けないよ。 始業時間になったら役職者を集めてミーティング。何か問題が無いか共有しようとしてる。そっか、人材育成と他社への派遣が業務だから社内にいない人の方が多いんだ。その分責任者が問題点を取りまとめて社長に打ち上げるスタンスなんだね。 社長室に戻ったら今度は書類にサインしたりだとか、パソコンで資料作りとか、そういうデスクワークを始めたね。時々WEB会議で遠くの会社の人とも打ち合わせをしてるみたい。 その後も一日中そんな感じで、凄く忙しそう。悪巧みしてる暇なんてあるのかなー。とか思ってたら、もうすぐ仕事も終わる時間になって、ポケットから何かリモコンみたいなのを出して部屋のあちこちに向けてる。何だろうあれ。それが終わると、今までの仕草が嘘みたいに乱暴に椅子に腰を下ろして、にやりと笑った。 「楽しみだ・・・もうすぐ手に入る。目もくらむような大金と、あの美しい『赤』が・・・」 ぞっとしちゃった。まるで別人。あんなに爽やかだったイケメン社長の顔が引っ込んで、冷酷な悪党そのものの顔つきになってる。 「ホテル街にいる奴らにも、そろそろ足を洗えと言っておかないとな。あんな事が発覚したら全てオシャカだ」 オシャカ？・・・お釈迦様の事かな？凪くんに後で聞いてみよう。あ、仕事終わりの時間だ。宿城も帰るみたい。私も明日になったら凪くんに報告しよっと。 だいたいそんな感じだったと幽魅は報告してくれました。成程、やはり隙を見せない慎重な人物のようです。リモコンみたいなものというのは恐らく盗聴器の発見に使う装置でしょう。そんなものを常備しているとは、かなり警戒していますね。 しかし、やはり気になるのは『ホテル街にいる奴ら』のくだりです。恐らく宿城とつながりのある人間、かつ社会的に公表できない何かをやっている連中。・・・非常に嫌な予感がします。 「ね、凪くん。オシャカって何？」 「失敗して使い物にならなくなるってこと。この場合だと晶さんとの婚約話が台無しって意味だと思うよ」 「じゃあ、それが宿城の急所なんだね。分かった、今日からホテル街で変な人がいないか見張るようにするね」 「うん、お願い。ただ・・・場所が場所だから、性的なものも目にする確率も高いけど大丈夫？」 「大丈夫！私これでも彼氏持ちのアラサーだからね。大抵のものは平気だと思います！」 謎の自信です。記憶喪失でしょ君。その彼氏との思い出も何もないのになぜ大丈夫と言い切れるのか・・・。とはいえ、一番隠密性の高い目である幽魅の存在は頼もしいので、晶さんのためにもここは頼っておきましょう。