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相棒のようすがおかしい (3)

「お疲れ様、セイルっ」 「ああ、お疲れ。ミア」 依頼の報告を終え、俺は酒場でひと息ついていた。 向かい側に座っている少女――ミアが、水で薄めた葡萄酒をちびちびと飲んでいる。短く切った赤毛のてっぺんからは、ふさふさとしたネコの耳が生えていた。彼女は獣人(セリオンスロープ)――ネコの血が混じった、猫人族の少女である。 俺とミアは、この町を拠点に活動する冒険者だ。先日、中級(ミディエイト)の称号を得た俺たちは、ようやく冒険者の中で一人前と呼ばれるようになったばかり。ゴブリンやオークに遅れをとることはないが、オーガのような大物はまだまだ手に余った。 「お、二人ともやってるなー?」 「あっ、ケイ姉!!」 そう言って声をかけてきたのは、濃紺のローブに身を包み眼鏡をかけた妙齢の女性だった。エールのジョッキを片手に、ミアの隣に腰かける。すでにできあがっているのか、抱きついて耳の生えた頭をわしわしと撫でまわした。 「ちょ、ちょっとケイ姉、くすぐったいよー!!」 「ふふふ、よいではないか、よいではないか」 「やめろって、嫌がってるだろ」 「なに、羨ましい?」 「ばっ、そんなんじゃないって」 ケイ姉――ケイティは俺たちの先輩で、達人(アデプト)の称号を持つソーサレスだ。二つ上の階級である彼女は、ギルドでもトップクラスの実力者である。 「どしたの、ミアちゃん。全然食べてないじゃない」 「あー……うん。ちょっと食欲なくってさ」 指摘されてミアの皿を見てみると、食事にほとんど手をつけた様子がなかった。よくよく見ると顔も少し赤いし、いつもはリズミカルに動いてるネコ耳も、どことなく元気がない。 「大丈夫か、ミア。風邪か?」 「えっ? う、うん。そんなとこ」 決まりが悪そうに顔をかくと、ふらふらと席を立つ。 「……ごめん、セイル。ちょっと先に、部屋へ戻って休んでるね」 おぼつかない足取りで、寝室のある上階へと登っていった。 「ミア……一体、どうしたんだろ」 「…………はぁ」 「何だよ、ケイ姉」 「べっつにー」 にやにや笑いながら問いをはぐらかすと、ケイ姉は頬杖をつきながらジョッキを呷った。 「それにしても、あんたみたいなお人よしが三年ももつなんてね。私は早々に脱落するほうへ賭けてたんだけど」 「……そりゃ、ご愁傷様で」 「ミアちゃんを引き取る、って言いだした時はどうなることかと思ったわ。ガキにガキの面倒が見られるわけない、ってね」 ミアと知り合ったのは、冒険者を始めて間もない頃だった。魔物の襲撃で身寄りを失った彼女を、周りの反対を押し切って引き取ったのだ。 もともと素質があったのだろう。冒険者になった後はめきめき腕を上げ、今では立派な自分の相棒だ。 ボーイッシュな雰囲気と相まって、俺はミアを年の離れた弟分のような存在と思って接してきた。これまではあまり性別を意識することなく、気楽に接していたのだけど……。 「でもま、ミアちゃんも大変よねー。相棒がこんな朴念仁じゃ」 「どういう意味だよ、それ」 「ふふん、自分で考えなさい」  さんざん言いたい放題言った後、ジョッキをぐっと飲み干して席を立つ。お勘定を支払うと、上機嫌のまま千鳥足で店を出ていった。去り際にこちらを向いて、ケイ姉は静かに笑う。 「セイル。ミアちゃんのこと、ちゃんと見ててあげなさい」 「あ、ああ……」 「じゃねー♪」 手をひらひらさせながら、ケイ姉は今度こそ夜の町へと消えていった。

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ネットの片隅に生きる、なんちゃって物書きもどき。自作小説の表紙や挿絵をAI生成してます。画像生成はNAIを使用。主にPixivに生息。

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