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最期の食事
「お母様?この写真は?ずいぶん昔の物みたいですけど」 シルビアは、机の上に置かれていた写真たてを手に取りながら言う。 母やまだ若く、シルビアより幼いぐらいに見える。 ダークエルフである母、アーゼリンが幼く見えるとなると、とんでもなく昔になるはずだが。 「ああ、その写真か。私も本当に幼かったな。みんなも……」 草木のまだらの軍服を着た自分を指さして、指を動かす。 「あれが、最期だったか」 「デリシア、本当に撤退しないのか。まだ時間はある」 アーゼリンは、傍らにいる緑髪の少女、に見えるドワーフ女性に話しかける。 「ううん、私がご飯を作らないと。みんな大変だよ」 食事を作る、それだけが理由ではないだろう、拒絶の言葉だった。 「・・・・・・、 そうか・・・・・・」 強固な意志を感じ取った、ダークエルフの将校はうなずいた。 「では、私も最善を尽くすとする。あなたが撤退する時まで援護する」 背中を向けて立ち去ろうとするアーゼリンに。 「まって、ごはんだよ」 手によそった一人前のプレートを差し出すデリシア。 「いや、私よりも他の物にやってくれ」 それに対して緑髪のドワーフ炊事兵はかぶりを振った。 「アズ。食べることは生きることだよ」 「・・・・・・、そうだな。頂こう」 アーゼリンは、軽く微笑むと、食事を受け取った。 敵の総攻撃が始まったのかそれから……。 「それで、デリシアさんは……」 聞かれたアーゼリンは、黙って天を指さした。 「うっ・・・・・・」 予想していた答えだったのだが、シルビアは悲しげに目を伏せる。 「そうですか、お空に・・・・・・」 「いや、神になった」 「はっ!?」 「だから、デリシア神の物語と」 ポカ!! 「あいた、何をする!!」 「いつもの嘘じゃないですか!!」 ポカ!! 「よせ。痛いじゃないか」 「私の涙を返せ。このポンコツ!!」 「ちょっと、やめなよ。お母さん叩いちゃだめだよ!!」 慌てて割って入る、緑髪の料理人。 「それに……」 (お友達が親子げんかしてたら悲しいよね。デリシア様) チェルキーは、友を見守っているであろう、自らの神にこっそり祈ったのだった。