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オタクの真価

「うーん、やっぱりこれは」 暗い部屋の中で、若い女性が、複数の端末に向かい合ってうなっている。 服装にはあまり気を使わない様子で、少々ふくよかな容姿は、オタクと呼ばれてしまうかもしれない。 だけど、黒髪の陰の、ディスプレイの光を反射する白い顔は、意外なほど整っている。 オタク、それは、優れたコンピュータ技術者に対する、尊称でもあるのだ。 彼女は、そのオタクテクニックを駆使して、捜査対象に関して一つの結論を出した。 「すまないですね。御宅さん。こんな無骨なところに呼び出してしまって」 髭を生やし軍服を着た、だけどどこか他の軍人とは違う雰囲気がする男が言う。 「いえ、いいんですよ。隊長さん。私もこうゆうところに興味がありましたから」 御宅とよばれた女性はかすかに微笑んで答える。 少しふくよかではあるが、黒髪で清楚な感じがする美女だ。 服装は少しやぼったさを感じるが、下手に飾り立てるよりはかえって、 彼女の控えめな美しさが引き立っているようだ。 「ネットでやり取りするわけにはいかんからな。ここは、”風通し”がよく見えるが、盗み聞きの心配もない」 「まあ、そうでしょうね。人間の目はごまかせますからね」 ちらりとガラス張りのオフィスから外をみて、御宅さんは答える。 「それで、どうでしたか?」 隊長は、相手が民間人だからか、幾分丁寧に尋ねる。 「確かに、特に何も出てきていないんです。いえ、出てきてはいるんですけど、大して重要ではない」 「うーむ」 隊長は、手持ちの端末を開いて情報を確認する。 そこには、ある部下の情報が表示されていた。 写真も表示されている。 銀髪のロングへアーのなかなかの美人で、それでいて可愛らしい少女だ。 いたずらっぽいく笑う顔は、今より少しだけ幼く見える。 内容的にはあたりさわりがない、軍人だから機密情報で、一般人の経歴とは結構違うが、情報が表示されている。 善良な市民と違うところ、部下の非行履歴だ。 喧嘩に、カツアゲという名の強盗に、アルコール摂取。 日本人の平均的な同年代よりは犯罪傾向が進んでいるが、この程度なら洋の東西を問わず、いくらでもいる。 「彼女には、当たり障りのないが、どちらかというと隠したい悪い経歴がある」 そこで、御宅さんは心なしか少し声を潜めて言う。 「説得力はありますね。だけど、うまく作られたありふれた偽物と言えば頷けてしまう。 逆に言えば、ものすごくガードが堅いです」 「そうか。もちろん、紐はついている、とは思っていたが」 隊長は、腕を組みながら考え、うなり始める。 「ただ、隠し方の気配からすると、あなた方に敵対する意図は持っていないかんじですね。 これは私の勘ですが。 ばれてもいいけど、決まりが悪いから隠している、という感じかしら」 御宅さんも、掌に顎をのせて考えながら答える。 「彼女の経歴も、そのまた正体も、ばれる事前提の囮かもしれんな」 隊長は、考えながらぼそりと呟く。 「あまりつつくと、別の何かが代わって出てくるかもしれないですね」 御宅さんが、隊長の言葉を引き継いで言う。 「彼女は、少尉のことが気に入ってはいるようだ。 少尉も彼女の事は苦手だけど嫌いではないようだしな。 悪意をもっていたら、少尉を欺くことはできんよ」 金髪の尻尾を思い返しながら隊長が言う。 尻尾は、御宅さんの頭にもひらひらしていたのだろう。 「ええ、少尉の前では誰も本性を隠せないですよ。 いつもどっか抜けていて、それでいて、的確に本質を見抜いてくる」 隊長もうなずいて言う。 「非合理的かもしれんが、少尉が好いていて敵ではない、と判断したならは、それはまず間違っていないよ。 実際、俺も少尉の直感で何度か命を救われている」 「あら、私もブロン子ちゃんのことは大好きですよ。 ブロン子ちゃんも私の事好きだとうれしいな。 隊長さんのことの方が好きみたいだけど」 御宅さんは、清楚な雰囲気で微笑んだ。

さかいきしお

コメント (3)

tokl【NwO】
2023年09月28日 21時30分
swingwings
2023年09月28日 21時07分
掬月

イラストも好きですがテキストも好きです!

2023年09月28日 08時59分

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