桜がやってきてから12年後のクリスマスの日――――

暖炉の火が揺らめく豪奢なリビング。美しいクリスマスツリーが光り輝き、一家とその来客たちは笑顔でお祝いしている。華やかな装いの男女たちはシャンパンを振る舞い、豪華な料理がテーブルを彩っていた。リビングの中は幸せな歓声と笑い声で満ちており、輝く装飾の下で楽しそうな会話が続いていた。

しかし、その華やかなパーティーとは別の世界で、桜は静寂に包まれた部屋で過ごしていた。薄暗い部屋の中、彼女は全裸で床にひざをついていた。首には細いリードがついており、それが彼女が犬として生きていることを象徴していた。

窓の外からはキラキラと輝くクリスマスの灯りが見え、部屋の中に微かな陰影を落としていた。部屋のドアの向こうからは楽しそうな笑い声や音楽が聞こえてきた。しかし桜にとって、それは遠く異次元の出来事のようで、彼女の心には何も響かなかった。

彼女の瞳は虚空を見つめており、表情は感情を失った人形のようだった。その姿はすでに人間としてではなく、ただの存在として生きる犬そのものであった。外の世界とは切り離されたその部屋で、桜はただ静かに時間を過ごすだけだった。

豪華なパーティーが終わり、リビングは静かな夜の闇に包まれました。来客たちは皆帰り、一家もそれぞれの部屋に引き上げた。その中で、真琴だけが一人、手に美しいドレスを持って桜の部屋へと足を運びました。

ドアを静かに開けると、部屋はまだ暗闇に包まれたままで、桜は床に四つん這いになっていました。真琴は部屋の灯りをつけ、深紅のドレスを床に広げました。そのドレスは上質な絹で作られており、深い赤色が部屋の暗さに映えていました。

桜は真琴の持ってきたドレスを見つめ、驚いたような目をしていました。しかし、すぐに彼女の瞳は無感情なままになりました。真琴は少し胸が痛みましたが、桜にドレスを着せ始めました。無感情な桜がそのドレスを身に纏うと、彼女の美しさは一段と引き立ちました。真琴はその姿を見て、思わず息をのみました。

しかし、真琴は部屋を出ると同時に、その美しい光景を胸にしまいました。そして、こっそりとケーキを持って再び部屋へと戻りました。真琴は桜の目の前に小さなケーキを置き、先程服の中に隠しておいたカップと紅茶、フォークを取り出しました。

二人は静かにケーキを食べ始めました。その空間はとても静かで、まるで時間が止まったようでした。真琴は桜を見つめながら、彼女が再び人間の感情を取り戻せることを願いました。一方、桜はただ真琴の動きを静かに見つめていました。

真琴の手はケーキにフォークを突き刺すことを止め、何かを悔いるような瞳で桜を見つめました。そして、無言のまま大粒の涙が彼女の瞳から零れ落ち、頬を伝い、床に落ちました。

その後、真琴は桜に向けて深々と頭を下げました。「桜、ごめんなさい」と、彼女の声は震えていました。「お母さんとお父さん、そしてカイとあゆみに、何も言えずにただ見ているだけだった私に、ごめんなさい。」

真琴は涙を流しながら謝罪の言葉を繰り返しました。「私も桜を物のように扱ってしまった。それがどれほど桜にとって苦痛だったか、今になって思い知りました。本当に…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめん…なさい…」

真琴の言葉は部屋の中に響き渡り、その後は静寂が広がりました。真琴は床にひざまずき、頭を床につけて深々と土下座しました。

一方、桜は無表情のまま真琴を見つめていました。彼女の瞳には何の感情も読み取ることはできませんでした。ただ、その黙っている姿は何かを物語っているようにも見えました。その静けさは真琴の心に重く響きました。

桜はじっと床に土下座する真琴の背中を見つめた後、ゆっくりと立ち上がりました。真琴の後ろから、彼女の肩に柔らかく手を置き、優しく抱きしめました。抱きしめられた瞬間、真琴の身体は硬直し、声も出せませんでした。

桜の体温が真琴に伝わり、彼女の緊張が少しずつほぐれていきました。そして桜が真琴をそっと引き寄せ、彼女が顔を上げると、桜の唇がそっと彼女の唇に触れました。

桜の唇の感触に、真琴は驚きとともに何かを感じました。そして桜は真琴の唇に優しく口づけを続けました。その瞬間、真琴の目から新たな涙があふれ出ました。それは苦痛や後悔の涙ではなく、解放感と安堵感に満ち溢れていました。

桜と真琴の唇が合わさるたび、部屋の中には深い愛情とともに時間が止まるような静寂が広がりました。真琴は桜を抱きしめながら、深い悔いと感謝の気持ちを込めて口づけを重ねました。

桜と真琴の唇は何度も何度も合わされ、情熱的なキスが続けられました。それは今まで二人が共に過ごした苦痛と屈辱を乗り越え、互いに深い愛情を確認する瞬間でした。

静寂に包まれた部屋で、二人の深いキスはゆっくりと終わりを告げました。真琴はしっとりとした目で桜を見つめ、その後ろめたさと謝罪の混じった視線で静かにテーブルに向かいました。しかし、その動きが止まると同時に、何事もなかったかのように桜の手が真琴の首にサッと当たりました。

真琴の体は一瞬で力が抜け、彼女は床に倒れこみました。一瞬にして部屋の中に沈黙が広がりました。桜はひとりきりになった部屋で、真琴の体を静かに抱え上げました。彼女の顔色は変わらず、そのまま部屋の一角に隠してあった大きな箱に真琴を収めました。

テーブルの上のケーキと紅茶のカップ、そして紙皿とフォークは素早く片づけられ、深紅のドレスもベッドの下へと隠されました。部屋はただちに、桜が雌犬として生活している証のような状態に戻りました。

首輪とリードが再び桜の首に戻され、桜の体は四つん這いの姿勢になりました。彼女は部屋の中で自然な動きで床を這いまわり、ふたたび人間ではなく雌犬のような振る舞いを始めました。

四つん這いの姿勢の桜の周りには静寂が広がり、部屋の一角には気絶した真琴が大きな箱の中に静かに眠っていました。その全てが桜の決断と行動の結果であり、それは彼女が次に何をするのかを予感させる静かな緊張感を部屋に漂わせていました。