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新聞・騎兵・伝令兵

「やっとのことで騎乗兵資格を取ったのに。憧れの竜騎士になれるのはいつの日かしら……」 馬に乗っている女性騎兵が、ぼやいている。 まだ、若い女性だ。 どうやら、彼女は、軍に所属している騎乗兵らしい。 騎兵風の鎧兜に身を包んでさっそうとした乗馬姿だ。 鞄や手に大量の新聞を抱えていなければだが。 騎乗に適している動物は、驢馬から始まって、馬は勿論、竜、獣ではないが魔道車などもあるが、 騎乗するには資格と技能が必要だ。 驢馬や馬ならば一般人でも騎乗できるが、訓練された温厚な騎獣で、それも単純な動作に限られる。 疾走らせたり、急停止したり、あるいは複雑な運動をさせるには、それなりの技能と経験が必要だ。 素人が下手な真似をしたら、振り落とされて死亡してもおかしくない。 そして、それらを修めるには、ライダーギルドや、軍や衛兵に入隊する必要がある。 彼女は念願かなって騎乗兵部隊に配属されたのは良いのだが。 「毎日毎日新聞配達か~」 「ブルル……」 彼女が乗っている馬が、不服そうにうなり声をあげる。 「ああ、もちろん、あなたには不満はないよ。あんたはきれいだし、とっても賢いから大好き」 あわてて、騎乗している馬の肌をなでて宥める。 別に馬は彼女の所有ではない。 専属ではないが、ローテーションの中で彼女はこの馬と幾度かペアを組んでいる。 馬と馬に乗れることに不満はないのだが。 ただ、変化のない毎日に、彼女は退屈を覚えてきたのだ。 そんな心理は、危険な兆候ではあるのだが。 騎乗兵部隊は、各種配達業務も請け負うこともある。 新聞配達もその一環だ。 新聞といっても毎日出るわけではない。それだけの、資金的、時間的、距離的余裕が無いので、毎日新しい新聞を読めるのは、都市部とその周辺の人々だけだ。 そのため、少し離れた地域向けに、ある程度まとめた記事を、3日おきぐらいに届けることになる。 場合によっては一週間おき、一か月おきの所もある。 その配達業務を、軍の騎乗部隊がかなりの安値で請け負っているのだ。 訓練にもなるし、世間や一般人に対するアピールになる。 そして、対抗勢力に対する牽制にも。 この頃、広く運用されるようになった、魔道騎乗機械、大から小まで色々あり、一部は軍でも使われている。 中でも、鉄の道の上を走る大規模な騎乗機械、魔道列車が、大量に多くの物資人員を運べて、一人・荷重あたりのコストが安く、さらに騎乗技術よりは、魔動機術により運用されているので、騎乗兵やライダーギルドにとっては、最大の強力なライバルとなっているのだ。 魔道列車が世界を席巻するようになれば、物資の輸送は魔道列車に独占され、より高性能の魔道機械が戦場に出現したら、騎乗兵は役立たずとして、戦場の隅っこに追いやられる。 それを防ぐためには、世間一般に騎乗兵の有意性をアピールする必要があるとの事で、病人の緊急搬送などは勿論、新聞配達や、郵便、果ては買い物の手伝いまでも”任務”・”訓練”と称して実施しているのだ。 人々に、「ライダーさん、ありがとう。わし等は、あんたらが要るんだよ」 と言ってもらえば、ライダー冥利に尽きるというものだ。 種族によっては大型の魔道機械が入っていけない僻地が主な生活圏なので、小回りが利く騎獣が有効という部分もある。 「それに、なんだか世の中、物騒になってきたみたいだからね」 騎乗兵は、もちろん、軍の兵士の一員である。 騎乗兵は歩兵よりは強力な存在なので、少数でも兵士が定期的に移動、巡回していることは、街道や僻地の治安維持にも貢献している。 自分の行動が世間様の役に立っていることを自己確認すると、 「よーし、目指せ、ライドンロード(騎乗王)!!いつかドラゴンライダーになるぞ~!!」 彼女はよくわからない気勢をあげた。 「ブルル」 馬も、まあがんばれ、とでもいうように鼻を鳴らす。 右手を突き上げて、夢を誓う彼女の勢いに、新聞がはらりと一枚鞄から滑り落ちた。 「あっと、いけない。」 騎乗したまま、体を傾けて地面に落ちた新聞を拾い上げる騎兵。 そこには 『魔族による襲撃頻発 犠牲者多数」 物騒な記事が誌面を踊っていた。 「はい、新聞屋さんだよ~」 「ありがと~。騎兵さん!!」 騎乗兵の彼女が自虐めかして言うと、エルフの少年が新聞の束を満面の笑みで受け取る。 「あっ、ちょっと待って、手紙もあるんだ。族長さんあてだよ。あとこれ……」 走り出そうとする少年を呼び止めて、手紙と、ついでに駄菓子が二三個買える小遣いを渡す。 「ありがと~、また来てね~」 彼女達の努力は役立っているのか逆効果なのか。 騎兵から少年が新聞の束を受け取り、各家に配った後、村の中心にある大きな家の中で。 エルフの長老が、自室で新聞を読んでいた。それとは別に、個人にあてられた手紙も見分している。 何かの調査報告らしい。 普段、若者たち以上に野山を駆け回り、農地を荒らしたり、人々に危害を加える獣や魔獣を狩っているとは思えない、 年寄りじみた姿だった。 「やはり、オークたちの懸念は当たっていたか。彼らは我らより、野山に生きる者の性(さが)が強いからな。  1人になることが多いのならば、襲撃するのに格好の的だ。散発的にでも、各地で続けば、異変を感じ取るだろうな……」 エルフの族長は、新聞、手紙、書物をそれぞれ見比べながら、 オークの戦士から受け取った、オークの親爺(族長)の言葉を思い出す。 狩りや採集に出かけたものが帰ってこない。 生きて帰って、何者かに襲われたと告げる者もいる。 魔族、という言葉を残したものもいる。 人族、人間・エルフ・ドワーフ・オーク・獣人等が同等に属するものとされ、魔族と呼ばれる者たちと別れてから結構な時がたつ。 伝承と言えるほど古くはなく記録はあるし、エルフの長老の、父の世代が記憶に残していたぐらいの昔の話だ。 それ以降、各人族どうしは、多少の諍いやいがみ合いをつづけながら、時には力を合わせそれなりに平和にやってきた。 大規模な紛争が起こったり、伝統的・本質的に仲が悪い種族も存在していたが。 魔族との争いになったら、なれ合いや喧嘩の余裕はなくなる 人族どうしで小競り合いなどしている場合ではない。 ただ、現状の所、魔族の行動は、襲撃されても生存者がいるところを見ると、何らかの示威と見た方が正しいだろう。 実際に、オーク族長の使者であるゴルドン自身が魔族の襲撃を受けた。 ダークエルフ、アーゼリンが傍にいることを、魔族も把握していたはずだから、本気でどうにかしようとしていたとは思えない。 彼女は、それこそ、人属が互いの種族にわかれて激しく相争っていたころから、吟遊詩人として世の中を、戦場を、種族間を渡り歩いていたのだ。 並みの魔族が何人束になろうと、彼女を仕留められるとは思えない。 「ブロント。ゴルドン殿とアーゼリンたちを呼んできてくれ」 彼は、メガネを外して立ちあがると、彼の息子で若長でもある、屈強な青年に声をかけた。 長老は、長引いていた評定を終えて、結論を出す覚悟を決めた。

さかいきしお

コメント (4)

yuyu
2023年10月20日 23時37分
銀の野兎
2023年10月20日 11時42分
はるはる
2023年10月20日 09時11分
青ねこ

にゃ~ฅ(`•ᆺ•´)おひとつくださいにゃ

2023年10月20日 02時54分

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