最期の朝陽
眩しい光を感じて僕が目を覚ますと、目の前には見知らぬ少女がいた。その傍らには大鎌が地面に突き立てられており、その鎌も少女の顔も紅く彩られている・・・血、だろうか。 「あら、まだ意識があったのね」 少女は僕に気付くと、酷薄な笑みを浮かべて手を振った。僕も何か反応を返さなければ、と思ったが、言葉も出ず体も動かない。目だけを何とか動かし、視線を自分の体に向ける。・・・手足に深手がある。愕然とする。その負傷を自覚した途端、燃えるような痛みが襲ってきた。 「こんな山にキャンプに来るくらいだから、やっぱりタフなのかしらね。彼女の方はそうでもなかったようだけど」 彼女・・・そうだ、僕は恋人の幽魅(かすみ)とこの山にキャンプしに来ていて・・・一緒のテントで就寝したところまでは覚えている。それから何があった?痛みで塗りつぶされる思考に鞭を打って記憶を辿る。 「まあ、意識があろうと無かろうと、私のやる事は変わらないんだけど」 少女が大鎌を手に取った。・・・大鎌。そうだ、寝ていたところに急にあの鎌で・・・!じゃあまさか、幽魅は・・・! 「ふふ、安心してね。恋人と同じところに送ってあげる」 何でこんな事になったんだ。僕たちが一体何をしたんだ。いや、確かに僕の方は人様に顔向けできない事をやった事もある。しかし幽魅は違うだろう? 目の前の少女に憤りを叩きつけたくてたまらなかった。けれど、何も言葉が出なかった。傷の所為ではない。 ―ああ、美しい。 朝陽を背負い、大鎌を振り上げる少女の笑顔は、ひどく残酷で、しかしこの世のものとも思えない美しさを帯びていた。知らず、ぼろぼろと僕の目から涙がこぼれる。 「さあ、愛する彼女を想いながら眠りにつきなさい」 すまない。幽魅、すまない。君を愛していたはずなのに、今僕の頭は目の前の少女の事でいっぱいだ。僕は魅せられてしまった。惹かれてしまった。この冷たくも美しい死神(リーパー)に。 恋人への謝罪と、手足の痛みと、目の前の死神への興奮に埋め尽くされた僕の思考を。 白銀の一閃が全て攫っていった。