…………こんばんわ
遠くの対岸で遠雷が如く、ドンッ、ドンッ、光って鳴る炎。 仕事を終えた彼女はベンチで、1本を咥えてライターを取り出す。が、火を点けたところで、タバコに近づけようとしてふと止まった。迷い、悩み、ため息をつき、火を消してポケットの中に両方を戻す。 最中に触れた服越しの腹は、胎と書き直すべき膨らみが目立つ。 たった一夜の過ちは、彼女に重い病を与えた。瞼を閉じれば顔が浮かび、胸が、子宮が、膣が疼く。一日であっても欠かすことがあったなら、たまらない欠落で心を苛んだ。 中毒のように、麻薬のように、彼女は彼に、またがって組み敷かれる。 「…………こんばんわ」 約束よりも少し早く、彼女は今晩の挨拶を交わした。 既に火入れの済んだ火照った肌を、ボタンをはずして僅かに見せる。慌てた姿が彼女を覆い、まばらな視線から隠し遮る。その様はほんの少し滑稽で楽しく、とてもとても、とても温かく愛しく嬉しい。 見上げた先の困り顔を、彼女は谷間に、素肌に誘う。 今夜はどれだけ愛してくれるだろう? どれだけ熱くしてくれるだろう? どれだけ貫いて突き上げ犯して、いっぱいに注いでくれるのだろう? 凍ることをやめた女の身体は、番の男を巣へと攫った。