1 / 20
「一方で、」佳純先生は続ける「いつ我が県に現れたかわからないけれど江戸末期まで活動を続けた蟲使いの集団がある。僕くん、あなたお家の人から何か聞いたことはない?」
ある。確かに…、ある。僕はおばあちゃんっ子だったが、幼い頃おばあちゃんから困った時に蟲に助けてもらう歌を沢山たくさん教わった懐かしい記憶がある。祖母が亡くなった後も、何かある度に口の中でその歌を諳んじながら生きてきたのだ…。昔から僕の意図する所は不思議と他人によく伝わった。他人を翻意させる事もしばしばだった。生前おばあちゃんはそれを「虫の知らせに助けられた」って言ってよく笑ってた。そして虫を大切にしなさいよって。 「そう、僕くん間違いないわ。あなたの家こそがきっと明治期以降記録文章にも姿を現さなくなった蟲使いの家系なのよ…」