1 / 10
義母と買い物に行く(前編)
【相変わらずの妄想小説です。何卒よろしくお願いします】 「いらっしゃーい。おっ、桃ちゃん、久しぶり」 「こんにちは、亜希子さん」 「お久しぶりです、亜希子さん」 「今日は貴彦君も一緒かい。お母さんの買い物の付き添い?」 「まぁそんなところです」 今日は義母と一緒に、行きつけの雑貨屋兼女性用下着店に訪れた。 住宅地から少し離れた公園近くの一角にあるこのお店は、雑貨や海外の下着を主に扱っている。 義母の胸のサイズは少々・・・いやかなり大きいが、国産の下着だと物が少なく、なかなかお気に召すデザインが少ないらしい。 一方で、海外の下着は比較的大きいカップでも凝ったデザインのものも多く、そういった品をこのお店の女性店長が直接買い付けに行って販売している。 女性下着の相場は判らないが、やはりここのお店の物は値段が高めではあるものの、義母としては安物買いの何とやらをしたくないので、予算の範疇で、いつもこのお店で買っているそうだ。 そしてこのお店の店長が亜希子さん。本人曰くアラフォー間際で、黒髪を上に纏め眼鏡を掛けており、義母に負けず劣らずのプロポーションを維持している。 外見的には、かなり魅力的な大人の女性なのだが、如何せん、本人の性格が開けっ広げというか奔放かつエネルギッシュな人で、しばし外見と発言のギャップに困惑させられるケースが多々ある。 所謂バツイチで、亜希子さん曰く「前の旦那はセックスレスのくせに年下と浮気しやがって、速攻別れたわよ」とのことである。 そんな豪快な人柄が義母にとっては心強いのか、色々人生の先輩として慕っており、こういった関係が続いている。 「ヨーロッパに行って買い付けが終わって色々入荷したってメッセが来たから、寄っちゃいました」 「有難う有難う。今回も中々良いのが入ったよ。バンバン買い付けたからね。んじゃ早速商談始めまひょか」 手を揉み擦りながら、インチキなイントネーションの関西弁を喋る亜希子さん。 現実に揉み手摺手をする人がいるんだなと思っていると、二人は雑貨屋の隣にある別室の下着コーナーに入っていった。 雑貨屋の陳列棚を色々見ていると、店の奥から、前髪を揃えたストレートヘアーの眼鏡の女の子と男性が顔を出した。 「いらっしゃいませ・・・あ、貴彦さんだ」 「こんにちは、由佳ちゃん」 「この声は・・・と思ったら、やっぱり貴彦君だったか。元気?」 「隆一さん。半年ぶりですね」 女の子の名前は由佳ちゃん。亜希子さんの一人娘で、たまにお店の店番や手伝いをしている。 そしてもう一人の男性は、店長の甥にあたる隆一さんで、学年でいえば自分より3つ上にあたる。 大学の教育学部在籍で、今回の自分の大学受験において色々アドバイスをしてもらった。 線も細く優しい顔立ちだが、いざという時にとても頼りになる人だ。 「貴彦さん、珈琲と紅茶、どっちがいい?」 「珈琲で」 「お兄ちゃんも珈琲でいい?」 「良いよ。ダブダブで」 「いつものね。畏まりました」 オーダーを承った由佳ちゃんが再び店の奥に引っ込んでいく。ちなみにダブダブとは、砂糖ミルクをそれぞれ2杯づつ、という意味らしい。 程なくして、ミルが珈琲豆を砕く音と、コポコポとサイフォンが泡を立てる音が聞こえてきた。 やがて珈琲の良い香りがお店中に広がっていく。 3つの珈琲とお茶菓子が乗せられたトレイを持って、由佳ちゃんが出てきた。 「はいどうぞ」 「ありがとう」 やがて同年代3人がテーブルを囲み、近況報告を兼ねた雑談が始まった。 「ああそうだ。もう授業とか大学には慣れた?」 ほぼカフェオレに近い珈琲を飲みながら隆一さんが聞いてきた。 「いやー、覚えなきゃいけないことだらけで大変です。でもやっぱり面白いですよ」 「何勉強してるんだっけ?」 興味津々に由佳ちゃんが聞いてきた。 「地質学だよ。平たく言えば、地球の土とか岩石とか地層とか」 由佳ちゃんはあまりこの話題にピンと来ないのか、話題を変えてきた。 「あ、そうだ聞いて聞いて。今回お兄ちゃんの家庭教師のバイト、私もなんだけど、教えた子みんな志望校に合格したんだって」 「スゴイっすね隆一さん。名教師だ」 「いやいや、皆さん素直な良い生徒さんばかりで。自分は何もしておりません」 謙遜そうに話す隆一さんは、照れ隠しとばかりに珈琲を口にする。 「でもね、受け持った人、みんな女の子だったんだって。なんかあやしー」 ぶはっと隆一さんが珈琲を吹き出しそうになった。 「何もないよっ。いえ何も御座いません。生徒さんのお宅で食事を頂いただけです・・・」 「ふーん・・・」 何か妙に狼狽える隆一さんを、正に文字通りのジト目で見つめる由佳ちゃんだった。 他愛のない会話が続いていたころ、隣の下着コーナーから顔をこちらに出す亜希子さんの呼ぶ声が聞こえる。 「あー、貴彦君、貴彦君。緊急事態だ。大至急こちらに来てくれ給え。繰り返す・・」 何だ何だと、足早に下着コーナーにある広めのフィッティングルームに入る。 そこにはハンガーで吊るされた数多くの色取り取りの下着と、下着姿で困り顔の義母がいた。 「亜希子さん、本当に呼んだの?ごめんね貴彦」 「で、何ですか亜希子さん。虫でも出ましたか?」 「違うわよ。実はね、桃ちゃんに色々見繕ってたんだけど、どれも甲乙付けられなくてね。そこで君の意見が欲しいなと」 「なんで俺なんですか」 「そりゃあ、桃ちゃんの下着を一番見たり楽しんだり脱がしたりする担当は君じゃないの」 『亜希子さん!』 唐突に衝撃的なことを言う亜希子さんに対し、僕ら二人が同時に突っ込みを入れた。 「はぁ、今更何言ってるの?今のアンタ達二人がどういう関係かって、大体見りゃ解るわよ。客商売舐めなさんな」 「・・・何時から気づいたんですか?」動揺を抑えながら亜希子さんに聞く。 「以前と違って、お互いの見る目が変わってたからね。こりゃ何かあったなと。んでカマかけてみたら、この焦りよう。ビンゴだね」 義母さんは、顔を赤らめながら俯き、いたたまれない顔で聞いている。 「で?いつからそうなったの?実際はどうなのよ?」 亜希子さんがこちらにターゲットを絞って、ニヤニヤしながら聞いてくる。 「・・・ご想像におまかせします・・・」 精一杯の返答だった。 【続く】