ナポリを見てから死ね

『ナポリを見てから死ね』と人は言うけれど、私はナポリピッツァを食べてから死にたい。 プーケットで充実したバカンスを楽しんだ私はそのまま南イタリアに飛んだ。 街を見下ろすトラットリアでピッツァ・マルゲリータを堪能する。 モッツァレラチーズの濃厚な味わい、バジルの瑞々しい香り、すべてを支えるトマトソースの絶妙な酸味。 熱々の生地はカリッとしてモチモチ、高温の窯で仕上げられたからこその風味。 白いモッツァレラチーズ、緑のバジル、赤いトマトソース。 イタリアの国旗のようなこのピッツァは紛れもなくイタリアを代表するピッツァなのだろう。 彼女はどうしているだろうか？ 赤いトマトソースを見て思い出す。 ストックホルムに行くと言っていたけれど。 読書中毒な彼女はミーハーな観光客のように、せせこましく観光地を回ったりする質ではない。 それこそ市立図書館に籠もっているか、ホテルでぐうたらしているか、 あるいは一日中鉄道に揺られつつ読書に興じているかも知れない。 そんな旅行に意味があるのか？ フォークで赤いソースを突っつきながら思う。 確かに時間と金の無駄と言われるかも知れない。 しかし、裏を返せば贅沢な使い方なのだろう。 それに自分の時間や金の使い方をとやかく言われる筋合いもない。 「一緒に旅行したかったな…」 最後のピッツァを口に詰め込むと何か思いついたかのように席を立った。 関連作品 https://www.aipictors.com/works/131537/